Q1:なぜ 第一回がMVV(Mission Vision Value)から始まるのでしょうか?
A1: 前著『起業の科学』では、人、ファイナンスの話は出さずにひたすらプロダクトのPMF(Product Market Fit)について解説しました。出版から2年半経ち、様々な企業を支援する中で、スタートアップにとって成功するためのキーポイントがさらに見えてきました。
プロダクトがPMFした状態というのは「顧客に対する独自の価値提案」が実証されたことになります。MVVはこの実証が終了してから、改めて磨き込むべきです。なぜなら、これが実証されていない状態でMVVを決めたら、発想の軸が「作り手」となってしまうからです。MVVの発想の軸は「顧客への価値」にすることが重要です。「顧客価値」なくしてMVVを策定することは、「魂」がない「仏」であると考えています。
Q2 : PMF後、CXOにとって最も重要なことは何でしょうか?
A2: 本来、スタートアップの目的は新たな市場、産業を作ることです。よって経営者は起業家から事業家へと成長することが求められます。ここでPMF前にはふわっとしていたMVVを、改めて「顧客への価値提案」をベースに考え直す必要があります。
事業家は「ストーリーテラー」になることが重要です。ストーリーを描くためには「共感力」が必要です。さらに、そのストーリーは、明確な言葉にすることによって初めて人に伝わります。
強い企業は常に顧客の声や、インサイトをベースにして進化を遂げます。MVVも一度作ったら終わりではなく、外部環境の変化に基づいて変えていきます。CXOは定期的なオフサイトミーティングなどを通じ、チームメンバーからフィードバックを得て、MVVを更新、進化させていかなければなりません。
Q3 : MVVを持つ実務上の意味は何ですか?
A3 : MVVを持つ意味には、競合優位性(Defensibility)が高まる、プロダクトの訴求力が高まるなどいくつかありますが、 最も重要なのは「人」に関することです。MVVが明らかになると、エンゲージメントが高い人はいいパフォーマンスが出て、結果、いいプロダクトができます。そうなるとメンバーのエンゲージメントが高まり、そのような会社は株価収益が圧倒的に高く、離職率が低くなるので、伸びていきます。
ビジョンはある意味「踏み絵」です。ずれてきた人は調整するか卒業するのかを考え、合わなければ辞めて他のもっと合う会社に行くので、いい意味で人材が新陳代謝します。
一社一社のMVVが明確になると、世の中全体が適材適所になるのです。
Q4 : MVVの策定を通じてCXOがすべきこととは何ですか?
A4 : 私はCXOの意思決定の質とスピードを上げるためにこの本を書きました。
サイモン・シネックのベストセラー『Whyから始めよ』にもある通り、強い企業は「Why」から問います。ミッションとは、自社の事業のwhy(=なぜやるのか?)を問うことです。
私は特にスタートアップにおいてはwhyを起点としたwhy-how-whatの対話およびシナジーが重要だと考えます。Whyから始め、MVVを磨き上げた会社はメンバーのエンゲージメントを引き出し、求心力や事業の推進力を高めることができます。
持続的競合優位性というのは、why、what、howを掛け合わせて統合することによって強化され、さらにそれがその企業にとって唯一無二なストーリーを生み出します。ここがしっかりしている会社は、その先も生き残っていきます。
Q5 : MVV策定の奥にある、本当に大切なことは何でしょうか?
A5 : スタートアップにとって産業を作ることはもちろん大事ですが、それよりも大事なことがあります。それは、メンバーが「働くことが面白い」ということ、つまり「働き方」よりも「働きがい」が大切なのです。スタートアップの成長にとって欠かせないのは、会社のビジョンとメンバーの生きがいやビジョンが接続していることです。
この回の最後に、私が好きなリタリコのミッションを例としてあげさせてもらいます。
「障害のない社会を作る
障害は人ではなく社会の側にある
社会にある障害を無くしていくことを通して山田のような人が幸せになれる『人』中心の社会を作る」
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