「未来の主軸事業を生み出す『構造』と『実践』」イベントレポート

未来の主軸事業を生み出す「構造」と「実践」

— IMS × 生成AI × 起業参謀®︎で、“天才のひらめき”に依存しない事業創造へ —


2026年2月13日、NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ(以下、イノベーションラボラトリ)と株式会社ユニコーンファームは、オンライン共催セミナー「未来の主軸事業を生み出す『構造』と『実践』」を開催しました。


テーマは、「なぜ今、未来の主軸事業が生まれないのか」という、多くの事業会社が直面する問いです。その答えを出すべく、単発の施策や流行のツール紹介ではなく、“再現性ある事業創造”を可能にする仕組み(IMS)と運用設計、そして生成AI・起業参謀を統合した実践モデルが共有されました。 

本レポートでは、イノベーションラボラトリ所長 福井知宏氏による「IMSの実装知」、ユニコーンファームCEO 田所雅之による「事業創造の型と生成AI活用」、そして両者のパネルディスカッションで明らかになった「現場実装のリアル」を報告します。

1. なぜ「未来の主軸事業」は生まれにくいのか

新規事業の現場では、社内公募、アクセラレーション、CVC…取り組みは増える一方で、

  • 既存事業とのカニバリや「飛び地」への懸念で、大きな構想が通らない
  • 技術投資を事業化に接続する“再現性あるプロセス”が作れない
  • 大構想を描けても、投資判断に耐える戦略へ落とし込めない

といった壁にぶつかります。これは個人やチームの能力不足ではなく、「大きな事業を生み出すための構造(プラットフォーム)と、それを回し続ける実践設計の欠如」に起因する——この問題提起が、セミナー全体を貫く“背骨”となりました。

2. 福井 知宏氏(NECソリューションイノベータ イノベーションラボラトリ所長)

テーマ:天才のひらめきに頼らない、事業想像を設計するラボの挑戦 ー未来の柱をつくるIMSの実践ー

「天才のひらめきに頼らない」ために、事業創造を“実験”として設計する

福井氏が語ったのは、SIerという立場で新事業を生む難しさと、その難題に対して“天才待ち”を捨て、普通の人が真摯に実験を繰り返すことで前進する組織としてイノベーションラボラトリを位置付ける思想でした。

2-1. イノベーションラボラトリが「実験組織」である理由

「正解をお客様から教えてもらう」ことが成立しない領域では、拠り所は仮説検証しかない。だから自分たちは“実験組織”であり、成功確率を少しでも上げるためのマネジメントシステムが必要になる——これがイノベーションラボラトリのIMS導入の原点です。

福井氏が語ったIMSの目的は大きく2つでした。

  1. イノベーションの成功確率を上げる(失敗が9割超と言われる世界で、10%でも20でも改善する)
  2. 適切な新陳代謝を起こす(「止めない/進めない」が続き、次のネタが来ない状態を断ち切る)

ここで重要なのは、IMSを「制度として整備する」ことではなく、投資と探索を循環させる“新陳代謝装置”として運用するという発想でした。

2-2. IMS実装の肝:プロセスを“設計”し、リスク許容度を“明示”する

福井氏が紹介したプロセス設計のポイントはシンプルであり、かつ企業内で実効性を持ちます。

  • ステージゲートを置く(Pre Gerenrate→Generate → …のように段階化)
  • 各フェーズに活動期間投資上限を明示する
  • 目的は「縛る」ためではなく、組織としてのリスク許容度を合意形成するため

「どれくらいの期間・予算で検証してよいのか」が曖昧なままでは、現場は“無限に頑張る(=撤退できない)”構造に吸い込まれます。逆に言えば、明示することで初めて、撤退・転換・集中の意思決定が“設計”できる。ここがIMSの実務的な効能として語られました。

2-3. 評価の難所:ROIの外側で、経営と対話する

新事業をPL/ROIで裁くと、そもそも成立しない——一方で企業は単年度予算で動く。この矛盾に対し、福井氏は将来価値(事業価値)への投資として捉える発想(DCF等)を紹介しつつ、実務では「将来のお金は手触りがなく空中戦になりやすい」という“リアルな苦戦”も共有しました。ここが、事業会社にとって価値のあるポイントです。評価指標の議論は、制度論ではなく“経営との合意形成設計”の問題であり、そこに時間をかけてマインドセットを変えていく必要がある——この温度感は、机上の成功談では得られない実践知でした。

2-4. “審査の外部化”が生む、政治回避と学習の質

イノベーションラボラトリの審査会は、役職ではなく専門性の異なる審査員で構成し、さらに社外の事業開発専門家も入れますが、その狙いは明確です。

  • 社内政治に議論が引きずられないよう“調整”する
  • 多様な視点で偏りを減らす
  • 最終責任は委員長(福井氏)が持つ(合議の点数合計では決めない)

特に注目されたのは、社外知見の取り込みにおいて、ユニコーンファームのSAA(Startup Advisor Academy)アルムナイと連携している点でした。これは単なる人脈論ではなく、“外部の専門性を制度として接続する”設計です。セミナー全体の主題である「構造と実践」を象徴する事例と言えます。

2-5. うまくいかなかったから生まれた「Pre-Generate」

福井氏の講演において印象的だったのは、うまくいかなかった事例でした。

ステージゲートを回すほど、まだ市場がない技術や学術トレンドに対して審査が厳しくなり、現場では
「審査員は分かっていない」
「やってみないと分からない」
「根回しが足りなかった」
という方向にズレることが起きていました。

そこでイノベーションラボラトリが導入したのが、Generateの前に置く「Pre-Generate」
目的は「まだ事業性を評価できないもの」を否定しないことです。言い換えると、

  • 走りながら考える(エフェクチュエーション的)探索を許容する
  • “質の高いネタ”を溜めるために、時間(3〜6ヶ月)と予算を付ける
  • 市場性の判断を“留保”して、インプットの質を上げる

この設計は、企業内で見落とされがちな「探索そのものへの投資」を正面から制度化した点で、強い示唆を残しました。

2-6. AIは“機会”であり、“前提”である

福井氏は、AIの急速な進化について次のように述べました。
生成AIの成長スピードは、約7か月ごとに倍増と言われていたものが、直近ではそれを上回る勢いにあります。この潮流をイノベーションラボラトリは脅威ではなく機会として捉えています。
一方で、課題は「どうキャッチアップし続けるか」ということです。

AIは高度化・多機能化し、できることは急速に増えています。しかし、事業化とはそれを簡易化・自動化して顧客に届けることです。

研究開発による複雑化と、事業化による簡易化。この循環を回せる点が、研究開発と事業開発が同居するイノベーションラボラトリの強みだといいます。

実務ではすでに、

  • マーケティング用プロンプトの整備
  • AIによる特許ネタ出し支援
  • AIエージェントによる審査項目を踏まえたメンタリング
  • AIネイティブ開発

といった形で組み込まれており、実験の「高速化」と「高頻度化」ということで目的は一貫しています。

福井氏は、Googleの主席エンジニアが他社製AIを使い、1年解けなかった問題を1時間で解決した事例を紹介しました。
重要なのは、自社製かどうかではなく、今、最も良いものを使う姿勢です。
イノベーションラボラトリは、特定のツールに固執せず、進化するAIの生態系の中で現場が最適解を取り続けるという方針を採っています。
AIは選択肢ではなく前提条件。その上で、人間が問いを立て、意思決定を担う。このスタンスが、同社の事業創造を支える基盤となっています。

2-7. 参謀という存在 ― 外部知見を組織の意思決定に組み込む


福井氏がもう一つ重要なポイントとして挙げたのが、「参謀」の存在です。

新規事業開発では、社内の専門性だけでは視点が固定化しやすく、議論が既存事業の延長線に引き戻されてしまうことがあります。こうしたバイアスを避けるため、イノベーションラボラトリでは社外の事業開発専門家を“参謀”として制度的に関与させる仕組みを取り入れています。

審査会においては、役職ではなく専門性を基準にメンバーを構成し、さらに外部の知見を取り入れることで、多様な視点から議論を行う体制を整えています。これは単なるアドバイザーではなく、事業仮説の検証や意思決定プロセスに実質的に関与する存在として位置づけられています。

福井氏は、参謀の役割について次のように説明しました。

・社内では言いにくい指摘を行える第三者視点
・仮説や戦略に対して対等に議論でき、相手に気づきを与えられる関係
・新規事業の推進者と同じ一次情報を共有しながら解釈をぶつけ合う存在

つまり参謀とは、単なる助言者ではなく、事業の成功確率を高めるための思考パートナーです。

イノベーションラボラトリでは、こうした外部知見を一時的なアドバイスに留めるのではなく、IMSの運用や審査プロセスの中に組み込むことで、組織として学習し続ける仕組みを構築しています。

福井氏は、イノベーションは個人のひらめきだけで生まれるものではなく、多様な視点が交差する環境から生まれると強調しました。その意味でも、参謀という存在は、組織としてイノベーションを生み出すための重要な要素の一つとなっています。


2-8. 実証:東北海道ツーリズムの成果が示す「モメンタム」

福井氏は、IMSの効果が“徐々に出始めている”例として、ツーリズム領域の事業を紹介しました。イノベーションラボラトリが関わる「ひがし北海道観光DXプラットフォーム」は、第9回ジャパン・ツーリズム・アワードで経済産業大臣賞を受賞しています。 

また、投資ポートフォリオを事業の柱になりにくい案件が乱立する状態から4領域に整理し、テーマの新陳代謝(新規着手と終了)が回り始めたことが語られました。ここでのメッセージは明快です。
再現性は“制度導入”ではなく、“運用の改善”でしか上がらない。だからIMS自体も実験する。

3. 田所 雅之(ユニコーンファーム)


テーマ:未来の主軸事業を探索・検証するための「事業創造の型」と生成AI活用

「成功はアートでも、失敗は科学で減らせる」— 型と生成AIで“再現性”を引き上げる

3-1. PMFの手前にある「PKF(Product Killer- Use Case Fit)」

研究開発型(ディープテック)では、技術があっても用途が分からないことが多い。ここで田所氏が提示したのが、PMF(Product Market Fit)の前に置く概念としてのPKFでした。

  • まず“最初にぶっ刺さる市場”を見つける
  • それをミルフィーユのように積み重ね、事業テーマ(ドメイン)へ拡張していく
  • 評価軸として「頻度・便益性・ユーザー数」が効く

Amazonが最初に“書籍”に絞った例、ChatGPTがDALL-Eよりも「チャットUI」で爆発的にPKFした例など、事例で腹落ちする形で提示されたのが特徴でした。

さらに、ワイヤレス給電の事例では「ロマン(ペースメーカー)から、事業として筋が良い=ソロバン(Factory Automation)」へ軸足を移す過程が語られ、“ムリの排除”が戦略であるというメッセージにつながりました。

3-2. ステージゲートのアップデート:「ムリ・ムラ・ムダ」を減らす

田所氏は、ステージゲートが属人化しやすい背景を「人間の認知限界」と捉え、プロダクトだけではなく、流通・認知・適法性・セキュリティ・ガバナンスまで含めた“全体への目配せ”の必要性を強調しました。

特に、研究者指向(論文・技術成熟)とビズデブ指向(市場・拡大)の“壁”を越える存在として、トランスレーター(翻訳者)の重要性が語られた点は、先方の研究開発組織にも直結する示唆でした。

3-3. TRLだけでは足りない:技術×市場を同時に進める「XRL」

アクセルスペースの上場事例などを引きながら、技術成熟(TRL)の縦軸に加えて、規制・受容性・量産性・国際法対応など、多数の“現実のハードル”を横軸に並べ、両軸をバランスよく伸ばす必要を解説しました。
そして、この多次元の論点整理を支える手段として、生成AIを前提にしたプロンプト活用(地図とコンパス化)が紹介されました。

4. パネルディスカッション

テーマ:「技術・ニーズ・ドメインをどう結ぶか」— 実装のリアルは“問いの設計”に宿る

4-1. 生成AIは何を加速するのか、そして何が課題なのか?

福井氏は生成AI活用の本質を、「過去の膨大な知恵・知識を、人間が単独で扱うのは無理。だから使う一択」と断言し、その上で課題として挙げたのが、問いの設計が投げ手に依存することでした。

  • “筋のいい問い”なら、筋のいい答えが返るし、通り一辺倒の問いでは、通り一辺倒の出力になる
  • 最後に残るのは「今後、何をするのか」という、人間の本丸の問い
  • 我々の勝ち筋を見つける

これは、生成AIを「便利な検索」や「作業効率化」で止めないための、重要な設計論です。

田所氏は、知識を

  • パブリック(公開情報)
  • セミプライベート(組織内ナレッジ)
  • タシット(暗黙知)/シークレット(まだ誰もラベルを貼っていない一次情報)

の3層で捉え、勝ち筋は最後の“暗黙知”に宿ると整理しました。
生成AIは外側の層を強烈にレバレッジする一方で、暗黙知を取りに行く一次情報行動の価値はむしろ上がる——この整理は、R&D組織や事業開発組織の動き方に直結します。

4-2. 生成AIの可能性と限界、そして”使い切る”という姿勢

田所氏は、生成AIの限界について「正直、まだ見えていない」と述べました。モデル性能は指数関数的に向上しており、例えばClaudeのアップデートではコンテキストウィンドウが大幅に拡張され、長時間の対話や複雑な文脈処理が可能になっています。性能向上と価格据え置きという現実は、進化が加速していることを象徴しています。

だからこそ、「ここまでが限界だ」と決めつけて、使わないことの方がリスクである、というのが田所氏のスタンスです。

田所氏自身は生成AIを用いた“バイブコーディング”を日常的に実践しており、自社サービス開発において、従来であれば数千万円規模・数か月単位を要する開発を、短期間で実装する事例も生んでいます。

生成AIは単なる補助ツールではなく、プロトタイピングや実装の速度を根本から変える存在になりつつあります。特に構造化された情報処理、ラベル付けされた知識領域の整理、コード生成や仕様の具体化、仮説検証の初速向上の領域などでは効果が顕著です。

一方で、田所氏は明確な限界領域も示しました。生成AIが得意なのは、すでに言語化・構造化された知識の処理です。しかし、人間がまだ言語化していない暗黙知や身体知、現場の微細な感覚――いわば“ラストワンマイルのチューニング”は依然として人間の領域に残っています。例えば、雪質が毎日変わるハーフパイプ競技のように、物理環境と身体感覚が密接に絡む領域では、完全な自動化は容易ではありません。また、オフライン世界ではデータのアノテーション自体が不十分であり、Web上の閉じた世界と比べると、まだ制約が多いのが現状です。

とはいえ、限界を論じる前に重要なのは実装です。田所氏は、現段階では「突破され続ける限界」を前に過度に懐疑的になるよりも、まずは徹底的に使い切るという姿勢が重要だと述べました。

生成AIは新規事業開発において、仮説生成、市場整理、仕様設計、プロトタイピングなどといった領域で強力な加速装置となっています。その上で、最終的な問いの設定や勝ち筋の発見、身体知や感情の理解といった部分は依然として人間の役割です。
生成AIは人間を代替するものではなく、思考と実験の速度を拡張する存在――これが議論から浮かび上がった共通認識でした。


4-3. 起業参謀/伴走者はどう進化するか

議論はさらに深まり、両者の結論がほぼ一致しました。

  • 参謀は「資料を作る人」ではなく、「アウトカムにコミットする人」
  • 現場に入り込み、一次情報を同じ景色として見て、異なる解釈をぶつけ合う
  • 上下関係(起業家が偉くて参謀は事務だけ)があると健全な対話が死ぬ
  • 生成AIは参謀の“認知限界”を拡張するが、最後は現場で汗をかく

ここで福井氏が示した期待値は明確です。
参謀は第三者的ポジションから耳の痛いことを言える存在であるべき
そして、イノベーションラボラトリのように知の蓄積ができる企業体では、参謀の暗黙知共有と再利用が“強み”になりうる、ということでした。

5. まとめ

未来の主軸事業は、「構造」と「実践」で生み出せる

本セミナーが提示したのは、流行語としての生成AIでも、理想論としてのイノベーションでもありませんでした。

“成功確率が低い”ことを前提に、どう設計し、どう学習し、どう新陳代謝させるか。

その問いに対して、イノベーションラボラトリは、IMSを核に、生成AIと起業参謀を統合しながら、実験を高速で回す“仕組み”を作り、なおかつ自ら改善し続けている——これが、今回の最も大きなメッセージでした。

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