2022年7月5日開催、220名以上の方にお申込いただいた大注目のウェビナー「Web3がもたらすシン経済学」では、『IT ビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』などの著者・尾原和啓氏を迎え、web3のその後について議論しました。
今、起業家や事業会社はどのように新しい経済圏を作ればいいのか?本レポートでは、1時間超のイベントの様子を一部抜粋してお届けします。
講師紹介
〈尾原和啓氏プロフィール〉
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのi モード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、グーグル、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に、『IT ビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(共にNHK 出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、『アルゴリズム フェアネス』(KADOKAWA)、共著に『アフターデジタル』『ディープテック』(共に日経BP)などがある。
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<田所 雅之プロフィール>
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
これまで日本と米国シリコンバレーで合計5社を起業してきたシリアルアントレプレナー。シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。現在は、株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長として国内外のスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、事業創造会社のブルーマリンパートナーズの取締役も務める。累計15万部以上を売り上げた「起業の科学」の著者である。
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Web3.0の経済的な本質とは?
田所:新たなパラダイムが生まれるとき、それまで価値がなかったものに流動性が生まれてマネタイズできるようになります。web3.0の時代においては、ブロックチェーンなどの基礎技術やIoTのセンサーテクノロジーが生まれ、これまで流動性がないものが流動化しています。いわゆる”uberization”という、ギグワーカーという労働力やアイドリングしていた車が流動化しマネタイズできるようになったということですね。web3.0の文脈では更にブロックチェーン上の台帳に記載されることで透明性が担保されることによって、これまで流動化しなかった財が新たな「コモンズ」となっています。一方で、二極化が進んでいるという指摘もあったりして、今後は格差を縮小させるような経済的な動きがあるんじゃないかと思っています。
尾原:そうですね。「web3.0とはインセンティブ革命である」という話がありますが、結局何をアップデートするのか?が大事です。資本主義と民主主義をアップデートするという話もありますが、資本とは何か?民主とは何か?についての解像度が低いと思います。資本というのは金融だけの話だけではなく、「みんなで培ったもので幸せになれる」と考えた結果、本日の副題である「シンコモンズ」という話に至ります。なので、「何の価値を高めて幸せになるのか」を考えて、原理原則や経済理論に立ち戻って話していければと思います。
田所:資本主義1.0や2.0を振り返ると、いわゆる「ステークホルダー資本主義」だったと思います。当事者だけが得すればいいという考えだと、結局いろいろ不都合が起きてしまいます。
尾原:いわゆる「外部不経済」ですよね。市場に取り込むことができたところが異常増殖したんだけど、逆にその市場取引の中に入り込めない物は、他に押し付けまくるみたいな事が起きちゃったって話ですもんね。
田所:例えばワクチンが届いていない南アフリカで変異株が出て、グローバルに広がってしまったのも、不経済といえますよね。そういった歪みがある中で、web3.0が果たす役割があるのではないかと思います。尾原さんは最近ヨーロッパに行ってましたけど、ヨーロッパのコモンズも非常に多いが、そこにレバレッジをかけるような動きや言論はあったんですか?
尾原:ヨーロッパに行って改めて思ったのは、Hivemapperとかは設備が足りていないところにみんなでその力を合わせて最初から立ち上がれば、得をするんじゃないかという考え方だと思いますね。
田所:なるほど。Hivemapperについて補足すると、いわゆる”GoogleMap2.0”のようなものです。GoogleMapは広告モデルが90%を占めていて、高いお金を払っているお店やビルが発見されやすいという問題点があります。一方で、本当に見つけて欲しい家とかが見つかりにくい可能性もあります。それをみんなで”Dirve to Earn”するわけです。Stepnと違うのは、これは本当に見えるコモンズですよね。フィリピンとかジャカルタではビルが建ちまくっていてGoogleMapも追いついていないという状況があるので、自分たちの要件を満たすために、個人は利己的に稼ぐために行動しています。これがまさにインセンティブ革命で、結局人はお金が稼げれば行動するんですよね。トークンの発行やディストリビューションの仕組みの進化もリアルタイムで起きています。これが経済的な本質とも言えます。
尾原:そうなんですよね。社会資本というのは、資本が新しい資本を作り、人間は何もしなくても儲け続けられるという仕組みです。web3.0になると、まさに地図をみんなで作ることで郵便局がすごく便利に配達できたり、eコマースが早く届いてeコマース事業者が儲かるようになったり、地図を作ることに貢献した人もトークンが貰えたりします。そういうことでマップ自体の価値が上がり続けます。このように、社会資本をみんなで一回育てれば、その社会資本自体が勝手にお金を稼いでくれるようになるっていうところが、本来的なweb3.0の理想形のひとつなのかなと思っています。
田所:Facebookやmixiと何が違うのか?という疑問もよく聞きますが、決定的に違うのは、貢献によってトークンが配られること、そして誰がどれくらいのトークンを持つかが公開されていることだと思います。それによって、これが経済として大きくなっていったらトークンが値上がりしていき、DeFiみたいなとこで取引されるので、イーサリアムのような価値を持つことがあります。このようなポジティブなループが回っている場所(コミュニティ)を探して、初期の頃にトークンを買った人が健全になるように運営側に言うなどで牽制が効くのが、web2.0とweb3.0の大きな違いですよね。
尾原:資本主義がなぜ歪んだのかというと、ピケティがいうところの金融資本主義としてお金を持ってる人がお金を再投資するから、どんどん格差が広がるという話をしてるんですけど、web3.0の時代においては、データを持ってるデータ資本家がデータ資本を再投資すると、もっと儲かるようになり、どんどんデータ資本における格差が広がっています。
GAFAMは「ゲートキーパー(門番)」と呼ばれますが、本来インターネットは好きなところから好きなところにリンクが張れるはずなのに、いつの間にか、データをアップするためにデータ資本家であるGAFAMを通して3割のお金を支払う必要が出てきています。このデータ資本家の独占をどうやって民主化して行くんでしょうか?という議論が生まれています。
現在の金融資本主義は、環境や周りに迷惑を掛けまくってもその仕組みの中にいる人だけが儲かればいいという最適化をしてしまいます。SDGsやESG投資は、炭素を使いまくったら損をする仕組みです。一方でカーボンフットプリント市場はまさにインセンティブ革命で、炭素をやり取りすることで儲かる訳ですよね。実際テスラが最初に黒字になったのも、車を売って黒字になったわけではなくて、電気自動車工場を作り炭素を使わないことによって黒字になりました。炭素以外でも、外部に押し付けてた不経済を、みんなが勝手に市場取引することでハッピーになれる仕組みを考えていかなきゃいけないですよね。
田所:ただ現在はweb3.0スタートアップの中には相反する概念もありますよね。世界が統一的に分散であったらいいんですけど、Terraのハッカー問題のように全部公開してしまうと悪いやつが入ってくる未成熟な市場ではありますよね。
尾原:そうですね。最近は負のネットワークエフェクトを学ばなければいけないという話がありますよね。ネットワークが広がるのはいいことだけど、集まってくるのは悪い人やリテラシーの低い人だったりします。「あの人が逃げてるからやばい」みたいになると、負のボラティリティがどんどん累乗化していきます。web3.0ではこの負のネットワークエフェクトをちゃんと見て、どうやってフィルターアウトするのかを真剣に考えなければいけないと思います。
田所:結局リーマンショックや日本の金融バブルがはじけたのも、儲けたやつがいるんですよね。情報に対する特権的なアクセスを持っている人が、損するものを空売りし買い戻して、その利ざやで儲けるみたいなことを、中央集権に近い所で行われていたんですよね。
尾原:ある種中央集権のいいところは、参入者を規制できるので、負のネットワークエフェクトが効きにくいところですよね。
田所:ただ、ミニバブルが起きて崩壊しているようなこの状況で、セーフティーネットを売るようなことも商売になってくるんですよね。かつてインターネットが出てきて情報が多すぎてどうしたらいいか分からない時にgoogleが出てきたように、アグリゲーターをする方が価値を生んできましたよね。
web3時代におけるシンコモンズとイノベーション革命
田所:web2.0はUberization、つまり使われていなかったアセットを流動化させていきました。改めてDXとデジタライゼーションの違いについて話すと、例えば不動産管理システムのような、効率化することによって間接費を下げて売上を上げるのがデジタライゼーションです、一方でDXというのは、Airbnbのように空いている部屋を流動化、つまりUberizationすることによって売上が上がるものです。他に例を挙げると、Timeeは労働力をUberizationしていますし、メルカリは所有物のUberizationをしていると言えます。
インターネットなどのイノベーションがコストを下げていくので、携帯やデジカメなどの高級品だったものがコモンズ化していきました。Uberizationも、クラウドやスマートフォンなどの技術がもたらしたと言えますよね。2020年台に入ってブロックチェーンが出てきますけど、原理的にはコストを下げていきますので、コモンズ化していくのではないかと思います。
web3.0でうまく行っているケースを見ると、気候変動や土壌汚染、水不足の問題をいかに抑制していくか、そして内部経済性、例えば快適な住居や平等であることなどのいわゆるウェルビーイングを、いかにして高めていくか、という側面がありますよね。
事例として、PlanetWatchプロジェクトというものを紹介します。都市の魅力度を考えた時にCO2の値が高い都市にはみんな住みたくないので、抑制しなきゃいけない。ただ、そういった数値は可視化されていないんですよね。そこで、みんなでセンサーを買って、データリワードを貰える仕組みができました。これによって、快適な住居という内部経済性はもちろん、自分とは直接関係のないコミュニティーに対しても外部不経済をもたらさない、という効果があります。
尾原:そうですね。大事なことは、いろんな都市がある中で快適な都市が分かれば、その都市の値段が上がり、その都市に住もうという人が増えるはずなんですよね。なので、外部経済性に見えること・内部経済性に見えることが、現実的に経済を動かしている「土地の値段」という資本にポジティブフィードバックが返ってくるわけです。結果として、データが外に出るので、コミュニティの外にいる人たちも恩恵を受けることができるのが、素晴らしいですよね。
田所:最近、PMFだけではなくてCommunity-Project Fitも大事だよね、という話があって、マーケットの中に包摂されないコミュニティをいかに作っていくかが重要になってきます。2012年頃にビットコインのホワイトペーパーを読んで、100万円分買った人が億万長者になっているように、本質を見抜いて金銭的な目的で入ってくる人もいると思います。その上で、discordで盛り上がっているかなど、プロジェクトとコミュニティにギャップがないかを見極められるかが、web3時代のリテラシーとしてはとても大事だと思います。
尾原:ビットコインのネットワークエフェクトについて考えると、ビットコインも金も共通の価値を信念として持っているから機能しています。つまりネットワークエフェクトのベースは信念ということです。そのお陰でかつて金から紙に移行できました。そしてフィジカルなものからネットワークに価値が流通することになった時に、その価値を何に共通基軸と置くかを考えると、ビリーフが必要になり、ビットコインが生まれたんですよね。
田所:ビットコインは今でも投機的な目的と思われていますが、元々はピアツーピアの電子通貨システムっていうビリーフなんですよね。歴史的に見ると、リーマンショックが起こって中央集権的な金融市場へのアンチテーゼという意味もあったと思います。そういう背景もあったので、投機的に設けるというよりは、まさにその価値の保全みたいなところだったり、非対称性を無くすといったところがビリーフとしてあって、そこから始まりましたよね。
尾原:少し話を戻して、web2.0の象徴がuberなら次に起こることは何か、という話をしたいと思います。ネットの本質とは、情報やものを小分けにして遠くに繋げるものという仮の定義を置くと、つなげる人が力を持つんですよね。つなげるものは物やコンテンツ、コミュニケーション等があるんですけど、最後に有限資産をつなげるということがあります。それで結果的にNFTとして出てきたんですよね。つまり、なぜUberizationがweb2.0の象徴なのかというと、リアルをネットっぽくつなげることにレバレッジが出てきた訳です。そうすると今後は、何を資本として培っていくんですか?という話が重要になってきます。
そう考えると、先程のドーナツの話が究極のシンコモンズになるわけですね。これはドーナツ経済学と言われるもので、輪の外側はエコロジカルセリングという、そこを超えてしまうともう戻れなくなるから守らなきゃいけないというボーダーラインで、輪の内側はソーシャルファウンデーションといって僕たちの幸せを維持していく土台なんですけど、これまでバランスを崩してでも金融資本を太らせすぎてしまって内側(ドーナツの部分)がすかすかになってしまったことに気づいて、投資し始めている、という状況です。
なので、このドーナツ経済をweb3の究極のシンコモンズ、と定義している田所さんはすごいですよね(笑)
田所:まだ磨いている途中ですけどね(笑)このように考えると、あらゆることがポンジスキームかどうかがわかると思います。例えばStepnが流行ってますけど、Stepnのミッションは人を健康に誘うというところにあるので、(ドーナツの図でいうと)内側の健康にあたります。あとは歩くことは車で移動するよりもCO2を出さないので、CO2を削減できるよね、ということを考えると、まさに(ドーナツの)内側と外側の世界ですよね。
こういったものがタケノコ的に出てきていて、Metaの幹部が最近入ったブレイントラストというサービスを紹介します。web2.0の問題点として、偽装プロフィールの温床になることや、手数料が高いことがあります。web1.0時代のタクシーと比べたら安くなっていますが、それでもギグワーカーは搾取されてしまいがちです。人材派遣モデルにおいては、エージェント側には高く売れる人材をより高く売ることにインセンティブが働いてしまうんですよね。結果として、その人が働いてみて全然ダメだとしてもそこには責任がなくなってしまいます。そこでブレイントラストは”reference to earn”で、紹介した側(コネクター)がトークンを受け取れる仕組みにしています。
尾原:なるほど。しかもホワイトペーパーでトークンの将来的なシェアを見せているので、権力を誰かが持ちすぎないようにもなっているわけですね。コネクターはマッチングすることでマージンがもらえるから、負のネットワークエフェクトが働いて、チートとしたほうが美味しくなってしまいますよね。それを防ぐためにレビュースコアがあって、結果的にレビュースコアをためたほうが得だよね、というインセンティブを提供しているんですね。
レビュースコアもチートしようと思えばできてしまいます。でも、”Don’t be the evilよりCan’t be the evil”っていうのは、そもそもコネクター自体が場の価値が上がる方向に貢献することで自分たちもトークンで儲かるし、オンラインクルデンシャルと呼ばれるネットの中でどれくらい信頼されるかを、オンチェーンでチートできない形で見えてくるから、誰がコネクトした人が将来価値が上がっているかが見えるようになっていくと思うんですよね。「あいつのコネクションで転職した人の価値上がってないじゃん」とか「あいつのコネクション件数少ないのに価値めっちゃ上がってるじゃん」みたいなものが可視化されていくわけですよね。
田所:オンチェーンのガバナンスが相関社会になって行くでしょうね。これを(ドーナツ経済の図で)少し強引にまとめると、所得と仕事の部分で、これまでは人材紹介したら普通は何百万円かもらえるところを誰かを紹介してもトークンなどのインセンティブがなかったんですけど、ちゃんと仕事をしているというのを一番評価できるのは同僚なので、そこの部分をつなげて、ある意味フェアに評価されることで内部的経済も活性化されますよね。
尾原:ジェフ・ベゾスが言った”Your Margin Is My Opportunity.”という象徴的な言葉があります。現実世界では様々な取次があってそこでマージンが発生しているんですけど、インターネットで直接つなぐことで、ロスしているマージンが全て自分の機会になる、というジェフ・ベゾスの戦略を表しています。でもweb3.0時代では、そのマージンが民主化していくんだろうと思っています。
そもそも今までなぜ中央にマージンを払わなきゃいけなかったのかというと、負のネットワークエフェクトがあったので、何かあった時のセーフティネットのために規模の経済が必要でした。web3.0時代では、規模の経済に関してはハイブマッパーのようにみんなで力を合わせればコモンズを作れるし、負のネットワークエフェクトを防ぐには、ブロックチェーンというコピーできないところに記録が残ってのでトラストレスの世界に移行していきます。普通だったら規模の経済でしか使えない社会資本をみんなで作ることこそが、web3.0の一等地だと思っています。
田所:最後にUberizationとStepnizationの決定的な違いについて考えてみたいと思います。
僕は”Stepnization”と呼んでるんですけど、(ドーナツ経済でいう)内部と外部を繋いでPMFした世界初の例だと思っています。Stepnで大きいのはPublic Blockchainを使っているということですよね。あと決定的に違うのは、事業の成長パスがPMF/PCF(Product Community Fit)というところですよね。それからホワイトペーパーを出して情報がトランスペアレントになっていくので、皆さんがどこにステークするかを決める時に、パーパスが有用になってきます。さらにcode of conduct(行動規範)を考えた時に、これまでは個々のモラルに依存していた所があるんですけど、今後はホワイトペーパーを出さなきゃいけないし、ウォレットで全部分かってしまうので、Evilになれないインセンティブが働きます。これまでの資本主義では”Don’t be evil”ということで個々のビリーフとモラルに影響していたのですが、これからは資本主義と民主主義の革命が同時に起こっていて、テクノロジーが”Can’t be evil”を可能にしました。
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