事業開発

CVC運営に新たな勝機。メンタリングを活用して新規事業開発の促進へ

DIC株式会社
新事業統括本部  新事業ヘルスケアビジネスユニット
H-2プロジェクト プロジェクトマネジャー
後藤 直孝 様

DIC株式会社
1908年創業の老舗企業。印刷インキ、有機顔料、PPSコンパウンドで世界トップシェアを誇る化学メーカーとして世界64カ国に事業展開している。推進中の新長期経営計画 「DIC Vision 2030」 では、 事業ポートフォリオの変革スタンスを鮮明化。2030年のサステナブルな未来社会の実現と、 DIC ならではの「ユニークで社会から信頼されるグローバル企業」 としての発展を目指している。

新たな「事業ポートフォリオ確立」に向けた長期戦略

──今回、田所による月2回のメンタリングを通して、新規事業の立ち上げを支援させていただきました。ご依頼前はどのような課題があったのでしょうか?

弊社では「DIC Vision 2030」として、2030年までに達成すべき長期経営計画を立てています。その中の基本戦略として、社会課題や社会変革に対応した新事業の創出が掲げられています。DICはこれまでインキ製品を軸とした事業で成長してきた会社ですが、市場環境の変化に伴い、新たな事業ポートフォリオの確立が戦略に盛り込まれました。

その中で私はスタートアップとの協業による新規事業立ち上げのきっかけ作りを任されたわけです。しかし、3年ほど試行錯誤したものの手応えが得られずにいました。そこで田所さんにご支援をいただけないかと考え、今回のお問合せに至ります。

──後藤さんの、これまでの取り組みについても教えてください。

DICでは2016年にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が設立され、私も2017年にCVCへ配属されました。拠点はアメリカで、世界を対象に有望なスタートアップを発見し、協業や支援を通じた新事業を創出することが最大の目的です。

ただ、2022年末まで約6年ほどCVCとして従事しましたが、最初の3年間はなかなか成果が実りませんでした。「これは」と思えるスタートアップを社内に紹介をしても、目立ったオープンイノベーションには繋がらず、失敗の原因もわからずに月日が流れていました。

体系化されたノウハウで「自社の課題」を分解・整理

──CVCとしての取り組みに、変化の兆しがあったのはいつ頃でしょうか?

コロナ禍に突入した2020年の始めに、田所さんが登壇しているウェビナーを視聴したことがきっかけで新たな動きが始まりました。その時の内容がとても興味深く、書籍も読んでみようと思い『起業の科学』と『御社の新規事業はなぜ失敗するのか? 企業発イノベーションの科学』を手に取りました。

読み進めるうちに、自分たちの新規事業開発が成功しなかった理由が体系立てて理解でき、一気に腑に落ちたんです。印象的だったのは「3階建て組織」に関する内容です。0→1と1→10、10→100、それぞれのフェーズでやるべきことが違うという話で、自分たちが既存事業を大きくするやり方で新規事業に取り組もうとしていたことなど、さまざまな気づきが得られました。

──なぜうまくいかなかったのか、どうすれば良かったのかが明確化したわけですね。

その通りです。とても素晴らしい本だったので上長にも紹介したところ、私と同様に多くの学びが得られたと話していました。当時、リアルタイムで新規事業に取り組んでいたこともあり、自分たちが現状を整理することに役立ったそうです。

その時に、自分たちは「顧客の悪気ない嘘」に気づけなかったという経験談を共有してくれました。これはインタビューに対して顧客が、本当はそう思っていないにもかかわらず、「以前からそう考えていた」という振る舞いで回答または理由づけをしてしまう現象を指します。結果、事業は間違った方向へと進んでしまう。

こうして田所さんの書籍を参考にしながら、自分たちのアプローチをどう改善しようかと考える中で、CVCとしての取り組みを根本から見直そうという話になりました。具体的にはスタートアップを社内に紹介するのではなく、彼らと協業でプロダクトを開発し、自分たちでマーケティング活動を実践するという考えです。

──すでに売るものが手元にあったということでしょうか?

DICでは、エレクトロニクス・オートモーティブ・新世代パッケージ・ヘルスケアの4つの領域をターゲットに新事業の創出を目指しており、私は「ヘルスケア」の製品開発を進めていました。スピルリナ(※)を活用した新しい形態の食品です。

ただ、DICは技術畑の人間が多く、マーケティング活動の知見があるわけではありません。闇雲に挑むのではなく、適切なアドバイザーが必要なのではと考え、田所さんにお声がけをしたという流れになります。

田所さんご本人に関心を示していただけたこともあり、月2回のメンタリングを正式にお願いすることができました。

※ スピルリナは藍藻類の一種で、今から30億年以上も昔に地球上に誕生した最古の植物の一つであり、栄養バランスの取れたスーパーフードとして知られています

0→1フェーズを成功させる事業開発能力の獲得へ

──ヘルスケア製品のマーケティング活動が始まる中で、田所のメンタリングは現場の活動にどう貢献したのでしょうか?

新規事業の立ち上げ方からマーケティングのいろは、広告運用の方法まで幅広くご指導いただきました。そこでの気づきは非常に大きなものでした。

私たちDICは、印刷用インキ・顔料・ポリマを中心とした製品群を取り扱ってきたBtoB企業で、営業方法もルートセールスです。つまり、「すでに完成した商品」を「既存のお客様に提案する」というのが長年の営業スタイルです。

一方で、0→1フェーズの新規事業は、「未完成の商品」を「まったく知らない分野の新規のお客様に提案する」という真逆のアプローチになります。私たちにとってはすべてが未知の取り組みでしたので、まさにチャレンジそのもの。田所さんのメンタリングがなければ、明らかに遠回りになっていたと思います。

──真逆の発想を取り入れていくことは簡単ではなかったと思います。

全員とまではいきませんが、着実にプロダクトアウトからマーケットインの発想で行動できるメンバーは増えています。最近では部門の枠を超えて、全社的にも「完成した製品ではなくコンセプトを売る」という発想が広がっている。容易ではなかったものの、挑戦の価値はあったというのが私の認識です。

「商品がない状態で営業には行けない」と話していたメンバーも、田所さんが指導してくれたコンセプト・シートを埋めれば十分に提案が可能だと自信をつけています。広い視点で見た時の副次的な効果も大きかったと思います。

──セールス以外の部分で、メンタリングの効果を実感できた部分はありますか?

2週間に1回のペースでメンタリングがあり、次回を迎えるまでに報告ができるような成果を作り続ける必要がありました。それが良い意味でのプレッシャーと言いますか、ペースメーカーの役割になっていたと思います。

あとはやはり、マーケティングに関する部分ですね。以前の私たちは、市場調査レポートにある情報だけを頼りに事業を作ろうという傾向がありました。しかし今回、田所さんに繰り返し指導してもらったのが、一次情報を取りに行く姿勢です。

新規事業を立ち上げるにはまずは業界のプロになる必要がある。そのためには有識者に対するインタビューや顧客へのヒアリングを重ねることが重要です。頭で考えるのではなく現場に出る姿勢を学んだことで、既存事業の10→100ではなく、新規事業の0→1に必要な能力を獲得できたのだと思います。

リーンスタートアップ方式で小さく失敗しながら学習し、仮説検証を繰り返す方法は今後の事業開発にも大いに役立つはずです。

──ヘルスケアの新規事業は、現在どのような進捗状況でしょうか?

これまで日本にはなかった斬新な形態だったこともあり、日本の法規制の中で少し取り扱いが難しい状況がありました。ただ国内でも興味を持ってくれたお客様はいたので、現在はこれを海外の市場に向けた、新たなマーケティング施策に展開できないかと検討しています。

いわば、国内向けにこれまで実践してきたことを、そっくりそのまま海外の市場で取り組むイメージです。いずれ日本でも再チャレンジしたいと考えていますが、今は顧客の手に届くまでチャネルの方向転換をする「チャネルピボット」を実践しているところです。

こうした考え方ができるようになったことも、私たちにとって大きな成果ですね。

老舗BtoBメーカーやCVCにメンタリングが有効

──田所のメンタリングを受けた経験から、どのような企業におすすめかをぜひ聞いてみたいのですが、いかがでしょうか?

私たちのような技術系の企業と、同じくCVCにもお勧めできると考えています。技術系の企業というのはイノベーションと聞くと「技術イノベーション」を考えます。つまり新しい技術を開発するという発想です。

一方で田所さんが指導するのは、「マーケティングイノベーション」です。お客様を起点にした製品開発になるわけですが、私たちのような老舗BtoB企業にとってこれは、まだまだ新しい発見であふれています。

また、CVCにもお勧めしたいというのは私の経験からです。多くの企業がCVCを組成するものの、うまく機能させられない実態があります。「DICではどのように取り組んでいるか?」と相談された時に、腹を決めて自分たちがマーケティングをしていると話すと、「それは凄いですね」と驚かれます。その中には、自分たちもやってみたいけど無理ではないかと考える方もいるはずです。

私たちも田所さんのご支援がなければ実現できていない取り組みですので、同じようにCVC運営で悩まれている方にも田所さんのメンタリングをお勧めします。

──素敵なお言葉をありがとうございました。最後に今後の展望についてメッセージをお願いします。

エレクトロニクス・オートモーティブ・新世代パッケージ・ヘルスケア、4つの領域にターゲットを絞った新規事業開発をDICでは進めています。ここに向けて、社会の変化や消費者ニーズの変化に合わせた「マーケティングイノベーション」を実現させたいと考えています。

私たちはメーカーとして技術イノベーションを日々追求していますので、その掛け合わせによって新たな価値を創出させることが今後の展望です。もちろん、会社としての数字目標はありますが、それ以上に社会に貢献したいという想いがあります。

新規事業については引き続き複数案件を推進している状況もあります。田所さんには継続的にご相談できればと考えていますので、今後もどうぞよろしくお願いします。

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