出光興産株式会社 デジタル・ICT推進部 デジタルエコシステム推進室 スマートよろずやデザイン塾事務局(取材当時) 青木 克紀様 佐野 双美様 高原 雅代様 |
出光興産株式会社
デジタル・ICT推進部 デジタルエコシステム推進室
スマートよろずやデザイン塾事務局(取材当時)
青木 克紀様
佐野 双美様
高原 雅代様
出光興産株式会社
燃料油、基礎化学品、高機能材、電力・再生可能エネルギー、石油・天然ガス・石炭などの資源に関する製造や販売事業を展開する企業。中期経営計画である2050年ビジョン「変革をカタチに」では、“人びとの暮らしを支える責任”と“未来の地球環境を守る責任”を果たすことを掲げ、「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」の3つの事業領域の社会実装を通じて、事業ポートフォリオ転換を推進することを表明した。
ビジョン達成に向け「イノベーション人材」の育成へ
──今回、貴社の運営する「スマートよろずやデザイン塾」にて、田所が講師を務めました。どのような塾なのか、創設の背景から教えていただけますか?
青木:出光興産の中期経営計画「2050年ビジョン」の実現にあたり、人材育成は弊社の主要テーマとなっています。具体的な狙いとしては、「DXリテラシーの向上」「起業家マインドの醸成」の2点を果たすことで、既成概念の枠を超えたイノベーション人材を育てることにあります。
その実現手段の1つとして「スマートよろずやデザイン塾」を創設する運びとなりました。とはいえ、ゼロベースでの起業に関する知識・経験も豊富なわけではありませんでした。
そこで塾開講にあたり、ユニコーンファームの田所先生に講師の依頼をさせていただいた次第です。塾自体は2021年に開講してから、2022年度で第3期まで開催しました。第3期の実施期間は2022年10月から2023年2月末までの5ヶ月間で、国内及び海外の支店・事業所から総勢22名が参加致しました。
カリキュラムの内容としては座学とフィールドワークに加え、講師によるメンタリングをバランスよく構成させました。第3期のチーム編成は6チームとし、それぞれのチームが独立した事業アイデアを検討しました。事業アイデアの選定工程については、アイデア自体の魅力度だけではなく、適社度、市場性のバランスの取れているものを採用しました。各チームの取組みは、仮説構築から始まり、課題検証、解決策検証、事業モデル検証、と順を追って取り組めるよう設計致しました。
塾の最終日には学習の成果として検討した事業アイデアを、弊社経営層、塾生所属部門長、直属上司や同僚そして全社員へ、オンライン配信で発表する機会を設けることにより、塾生のモチベ―ション、エンゲージメント向上につなげました。
専門知識や経験に加え、ピッチのアドバイスも魅力
──講師を検討する際、どのようにして田所のことを知ったのでしょうか?
青木:最初に田所先生のことを知ったのは、『起業の科学』が上梓された2017年頃です。新規事業開発や起業に必要なアプローチが体系的に説明されていたため、本当に素晴らしい内容だと社内関係者の中で話題になっていました。
同じ時期に弊社では新規事業開拓の必要性について、関係者内で検討が始まっており検証工程や実証方法などのプロセスのあるべき姿を議論しておりました。『起業の科学』の内容はその時に描いていたアプローチと合致する部分も多かったため、納得感も非常に大きい印象を抱いていました。
──最終的な決め手はどこにありましたか?
青木:大きな決め手となったのは、田所先生のセミナーを拝聴したことでした。塾の講師を探していた際、新規事業開発や起業に関する初学者であっても理解できるコンテンツを提供してくださる方が相応しいと考えていました。
田所先生のお話は経験談に偏ることなく、知識や事例を織り交ぜながら体系的に説明してくださるところが大きな魅力です。
「最初のフェーズでやるべきこと、次のフェーズでやるべきことをそれぞれ細かく解説してくれるため、受講生も自分の立ち位置を把握しながら、自ら取組み方を取り組めるのでは?」と、セミナーを通して判断することができました。
加えて、田所先生が社内ピッチデックに関するノウハウも豊富にお持ちだったことは、講師を依頼するにあたって重要なことでした。「スマートよろずやデザイン塾」では、最終課題として経営陣の前でのピッチが設けられます。この時いかに論理的且つMECEに抜けなく漏れない説明を求められますので、プレゼンスキルの部分でご支援いただける点も大きな決め手となりました。
初学者も質問しやすい「安心の場」がある
──実際に田所の講義を受けた感想もぜひ聞かせてください。
佐野:ご依頼前に想像した通り、論理的で非常にわかりやすい講義でした。座学では初学者もスムーズに理解できるよう一般化された内容でお話いただけたので、これまで新規事業や起業に馴染みの薄かったメンバーもすぐに理解できたようでした。
一方、テーマを絞って事業アイデアを検討するフィールドワークでは、状況次第で取るべき手段やアクションが変わります。そうした場面でも、個別に丁寧なアドバイスを頂いたおかげで受講生全体に大きな進捗が見られました。
一般化されたわかりやすい講義と、実践フェーズでの具体的なメンタリング。この掛け合わせが受講生にとって大きな学びになったのではと感じています。初学者にとっても質問しやすい雰囲気があり、講義の難しさゆえに脱落するケースもなかったように思います。
また、田所先生の講義について、論理的に整理された知識と豊富な事例を交えた説明が特徴だとお伝えしましたが、実際は「経験談」も非常に豊富でした。これまで日本と米国シリコンバレーで合計5社を起業した経験もあるため、現場ならではの視点もいただけたと受講生は感じていたと思います。
──成果として実感できたことは何でしょうか?
佐野:塾の狙いの1つ「起業家マインドの醸成」については大きな成果が得られたと感じています。田所先生の講義はイノベーション創出の成功プロセスの中でも、方法論だけではない起業家としての考え方や顧客との向き合い方など、マインド面のレクチャーも非常に豊富でした。
「スマートよろずやデザイン塾」は全国の営業担当者と、コープレート部門や主要関係会社の社員が半々で参加しているプログラムです。必ずしも新規事業やイノベーションと関連が深いメンバーとは限りません。それでも卒業後のアンケートでは「将来の選択肢としてイノベーションを起こすキャリアへ進みたい」とポジティブな反応があります。
2050年ビジョンの達成に向けて、「カーボンニュートラル前提のエネルギーシステム」「循環型社会の定着」「非連続的な技術革新」という事業環境認識のもと、新たな事業ポートフォリオ転換を図るタイミングでこのような声が生まれることは、非常に嬉しい成果だと感じています。
事業モデルの検証に進むチームも登場
──ここからは具体的な事例も伺いたいと思います。受講期間中に、どのような事業アイデアが生まれたのでしょうか?
高原:実際の事業アイデアについては、塾の一期生である私から事例をご説明します。当時の私が仮説を立てたのは「子どもを持つ共働き夫婦の朝食」に関する課題です。
共働き夫婦の朝は忙しく、限られた時間の中で多くのタスクをこなしています。朝食にかける時間が取れない中、「本当は栄養バランスの摂れた朝食を用意したい」「子どもと一緒に座って食べたい」と悩んでいる方が沢山いることが分かりました。まさに、私もその一人です。そこで課題検証のフィールドワークを実施し、ニーズの深掘りや解決策のプロトタイプを描くことに。最終的には、自宅に届く朝食宅配サービスに行きつきました。実証実験までの展開はできておりませんが、これまでの検討を今後に活かしたいと考えています。
事業モデル検証の更に先に進もうとしている事例としては、自治体の道路維持管理業務の課題に対し、自社のアセットを活用したDXソリューションの提供を検討したチームがあります。
ソリューションの流れとしては、日々、地域を走行する弊社の事業関連車両にスマートフォンを設置し、走行中にAI診断アプリにて道路の損傷箇所を検知します。
損傷個所の画像はサーバへ自動でアップロードされ、役所内の管理画面にて職員が路面状況の最新情報を確認すること可能です。
本テーマは、2021年の塾1期にて検討を開始し、2022年度には自治体と共に実証を行いました。事業関連車両の特徴を活かして高頻度かつ広範囲の路面情報を取得でき、職員の道路維持管理業務の効率化が確認できたことから、2023年度には正式に自治体に導入頂ける見込みです。
こうした事例が生まれていることもまた、「スマートよろずやデザイン塾」の成果だと考えています。
卒業後、自主的に課題検討に向かう姿も
──最後に、「2050年ビジョン」の実現に向けた、スマートよろずやデザイン塾の今後の展望について教えてください。
高原:新規事業開発は、既存の業務と違って「正解」がありません。受講生は心配や不安を抱えながら仮説構築や課題検証、ソリューション検証を進めています。そうした中で、田所先生には塾の第1期から多大なサポートをいただきました。
時には独自のフレームワークに落とし込みながらレクチャーを、時にはチームごとに詳細なアドバイスをいただきながら、今日まで受講生たちは頑張ることができました。今では自分たちで現状のフェーズを確認しながら、とるべき行動を一歩一歩考え進めるメンバーも現れ始めました。
受講を終えて卒業したあとも、部署内で同僚に学びを共有し、自主的に課題検討に向かう姿も見られます。『起業の科学』という書籍があることで、塾に参加していないメンバーも、新規事業や起業に関する共通言語をもって取り組めているようです。
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